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「あらまぁ、ふみちゃんなの?」「どうしたの?」
「お母さんに会いに来たのよ」
「まぁ、私に会うために?」「ありがとう、ありがとう、嬉しいわぁ」「今どこに住んでいるの?」「何時間かかるの?」
だいたいいつもこの会話から始まる母の面会。
「私の家はどこだっけ?」「今誰が住んでいるの?」「私の旦那さんはどこにいるの?え、もういないの?へーっ!」
これもいつも通りの会話。家の番地は覚えているのに、父のお葬式のことは忘れています。
「私の旦那さんはどんな人だったの?」
「とても優しい人だったわよ。病気もせず、よく働いて」
「あら~、もう思い出せないわ」
父のことをあまり好きではなかった(と思われる)母は、父が亡くなった途端に「お父さんのおかげで幸せだった」と自分の記憶を塗り替える早業を披露。父が生きている間になぜそれができなかったのかと呆れたものです。最近は「お父さん」ではなく「私の旦那さん」と言い、父の存在そのものまで記憶から消してしまいました。さすがです。
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「お母さん、お肌が綺麗ね~」
これを言うととても嬉しそうな顔になるので、毎回言ってあげます。
「そうなのよ。皆に言われるの、シワもシミも無くって綺麗ねって」「頭もいいって言われるのよ」
おお、そんなお世辞を言ってくれるのは介護のプロやな。
「ふみちゃんも可愛いわねぇ」
「私もみんなに褒められるのよ。お母さんに似たおかげね、ありがとう」
耳が遠い母のために声が段々大きくなって隣の面会者に筒抜けだけど、そんなこと気にしちゃいられません。片手で母の手を握り、もう一方の手を背中に置いてポジティブ合戦の始まりです。
しかも今回は、ど~んとバージョンアップしていました。
「私に二人も素晴らしい子が与えられて、これは一体どうしたことかしら」「本当に幸せ」「いい人生だったわ~。お化粧もおしゃれもしたし、歌も歌ったし、ダンスもしたし」
あなたが買いまくった洋服(と ハンガー)、高い化粧品の空き瓶、カラオケのテープと楽譜、カラオケと社交ダンスのドレス、大量の食器…処分するの大変だったんだけどぉ…と突っ込みたいところ。しかし、この合戦を途中で投げ出すわけにはいきません。
「ほんと、楽しかったわね~、よかったわね~」
「もう死んでもいいんだけど、私が死んだら皆が寂しがるでしょ。だからまだ生きるの」
「そうよ、お母さんがいなくなると私も寂しいから、頑張って長生きしてね」
「ありがとう、そうするわ」「…で、ふみちゃん、何でここにいるの?」
振り出しに戻る…。
母も娘も、それぞれがその時々の立場で「よかれ」と思うことをしてきたのだけれど、立場や役割が無くなった時、そこに残っていたのは単純な感情だけでした。あなたがここにいて嬉しい。一緒の時間が楽しい。そう思い、そう思われることが「しあわせ」の大切な要素だったのですね。
人生の終盤になって「悔いは無い」と言い切れる人はそう多くないと思います。
果たして私はどうなんだろう。「やりたい事ができなかった」と誰かのせいにして死の間際まで愚痴ることになるのか?後悔を上手に記憶から消していって、脳みその空いたスペースに楽しい気持ちを入れていくのでしょうか?
どちらであろうと、それを受け止められる自分でありたいと願うこの頃です。
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Mom and I always compliment each other whenever we meet. She loves hearing that her white, smooth skin is still beautiful. This time, her reflections on life were even more positive. "I've had a wonderful and happy life. I enjoyed dressing up, putting on makeup, singing and dancing. I also have such a lovely daughter and a wonderful son. I'm truly happy."
"Who lives in my house? My husband? What? He passed away? I don't remember him very well."
She was with my father until he passed away. To be honest, she didn't like him much when he was alive. After he died, her memory of him completely changed, and she started telling me that he was a good husband. Now, she doesn't even remember what my father was like. And she doesn't feel guilty about it.
"My life has been blessed and I've had so much fun, so I would have no regrets if I died now. But I have to keep living because everyone would miss me."
"Thank you, my child. Thank you for coming. Oh, look, you're so cute."
She did what she felt she had to do as a mother, and I did what I felt I had to do as a daughter. Now that we are both free from those 'roles and responsibilities,' all that remains are simple emotions: I'm so happy to see you and be with you. What a blessing to have someone you love and someone who loves you!
"I have no regrets in life." Not everyone can say that. What about me? If I leave things undone, will I keep complaining until I die? Or, will I forget my regrets and fill the empty spaces in my memory with positive emotions?
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